查看更多>>摘要:本誌読者には釈迦に説法であろうが、文化財IPM (Integrated Pest Management,総合的有害生物管理)とは、「生物被害防除のために、博物館・美術館・資料館・図書館等の建物において考えられる、有効で適切な技術を合理的に組み合わせて使用し、展示室、収蔵庫、書庫 など資料のある場所では、文化財害虫がいないことと、カビによる目に見える被害がないことを目指して、建物内の有害生物を制御し、その水準を維持すること」と定義される。CCI(Canadian Conservation Institute、カナダ保存研究所)では、文化財IPMについて5段階の制御項目を設けている。すなわち、(1)回避(Avoid), (2)遮断(Block), (3)発見(Detect),(4)処置(Respond)、 (5)復帰(Recover/Treat)の5段階である。これが現在の国際標準と言える存在になっている。教科書的な理解では、この5段階の制御項目のうち、特に重要な項目は(1)回避と(2)遮断と考えられている。これは文化財IPMの理念を考えれば当然のことであろう。しかし一方で、筆者らが所属する皇居三の丸尚蔵館を含め多くの博物館等の現場では、館同士で収蔵品の貸借をする頻度が高いなどの理由により、館内に有害生物が侵入して以降の対応が日常の文化財IPM活動で大きな比率を占めていることも事実である。それゆえ、(3)発見以降の項目をいかに取り組むか、もちろん(1)回避と(2)遮断の一層の充実も必要であるが、何よりこれらを一連の系ととらえて、各項目を有機的に連関させることが重要であると考える。